ロシア・ウクライナ戦争を考える(1)「侵略戦争」



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ロシアの戦争を「侵略」とよんだときFacebookの友達からいくつものクレームが来た。その多くは「おまえはマスコミのいうことを鵜吞みにするのか」という非難だった。そして何人かが「真実(ロシアが正しい理由)」を教えてくれた。そのときはめんどくさいのでそのままほったらかしにした。ぼくは30年以上前からマスメディアの誤りに抵抗してきたのになあ・・・という気持ちでしたが。

あれから2年たったがまだ戦争が続いていることに驚く。またその意味が変わっていないことにも驚く。だからあのときぼくに意見してくれたヒトとぼくとの立ち位置も変わっていないと思う。
大見えを切っていたトランプもなかなか終わらせることが出来ず、アメリカの弱さがますます浮彫りになってしまった。いざというときは核を使うといったプーチンには逆らえないのでしょうね。国際秩序の大変更が始まっているように見えますがそこまではよくわからない。

彼らは真実は一つだと思いたいのだが、実際は真実はいくつもあるとぼくは考えている。関与する立場のそれぞれに真実があるのだ。そして重要なのは、最後にどれが真実かを決めるのはいまでも力なのだという現実である。
もっと重要なのは「ほんとうの真実」なんかではなく、我々にとって利益になる、価値のある真実である。
真実というのは物事を理解する(理解させる)ための物語のことです。

問題を整理します。

真実A・・・ロシアは「力による現状変更(主権国家の領土など)」を禁じる国際法に違反した。これは侵略戦争とよばれる。それがaggressive warの訳語としてどうかという議論は措きます。

ただし戦争を始めたらすなわち侵略戦争かというと、国際法はまったくそうではない。
「その前に戦争がやむを得ないとみなすことのできるウクライナの挑発があったかどうか」が問題になる。
大東亜戦争の際の「米国による経済封鎖」は自衛戦争を正当化する挑発だったとみなすことが出来る(これは現時点ではまだ少数意見です)ので、この場合の日本の戦争は国際法に従えば侵略戦争とは呼べません。
最近では、ハマスによる大規模テロに対するイスラエルの戦争がこれにあたる。国際社会はイスラエルが戦争を始めたことは正当だと考えている。だからイスラエルの戦争は侵略戦争ではない。戦争のやり方については「国際法違反」が指摘されているが。

さて、そこでプーチン(ロシア)が侵略戦争を正当化した理由を見てみよう。プーチンの演説から持ってきたものだ。

1 ドンバス地方におけるロシア住民のジェノサイド(虐殺)を阻止するため
2 ウクライナを非ナチ化するため
3 ウクライナがロシアの脅威であるから非軍事化するため
4 NATOの東方拡大は安全保障上の脅威であるため
5 ウクライナはアメリカ・NATOの傀儡だから交渉はムダである
6 ドネツク・ルガンスクの独立を承認しこれを防衛するため
7 ウクライナにはそもそも国家主権はないのだから支配下に置くのは正当である

これを見るとロシアに同情的なヒトはこのロシアの主張(プロパガンダ)にもとづいて議論を組み立てていることがわかる。これに「グローバリズム対ナショナリズム」や「ディープステイトに対する正義の戦い」等の世界観が組み合わされているが。

西側と国連はこの7項目の全てを否定している。トランプのアメリカの立ち位置はやや不明確だが、この戦争は「ウクライナのせいで起きた」と言っていることから推測できるだろう(後述)。

ロシアとその支持者たちはこれを主張し、国際社会(日本を含む西側)はその主張を認めていない。ぼくが「侵略戦争」とよんだのはこの7項目を「開戦が認められる挑発」とはみなしがたいと考えたからです。

1は証拠がない。
2は一部の極右的な現象を国家全体にあてはめることはできない。そういう意味ではロシアにもナチがいる。
3はまったく当てはまらない。
4はロシアが主張すればその通りなのだろうというほかはないが開戦理由になるほど切迫してはいない。
5は大いにあり得るがそれもいきなり攻め込む理由にはならない。
6はそこにいるロシア人を迫害から守るという動機はわかるので、もしこれが事実なら7項目の中で唯一開戦理由になり得る。わが満州事変がこれに似ている。
7はまさしく帝国主義の論理であり、共産主義ソ連の論理であり、7項目の中で最も認めがたい主張である。これを認めたら、日本にとってまさしくいヤバい世界になる。

以上が現時点でのぼくの見方です。

1はいきなり攻め込む理由になり得る。事実なら国際法的にもOKだといえる。しかし「ジェノサイド」といえる証拠はいまのところまったくない。
6も具体的な証拠は乏しいが「迫害がまったくなかったとはいえない」だろう。

しかし、これもロシアの場合はいきなり開戦する理由とはならない。
なぜならロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であり、これらの事態を平和的に解決する道はふんだんにあったからです。そういう行動を一切しないで、半年前から黙々と戦争準備をして、いきなり東部地区に攻め込んだだけでなく北からはキウイを取りに行ったからです。

これは7が最大の戦争理由だったことを物語っています。腐敗国家ウクライナの抵抗があそこまでなかったらプーチンのロシアに組み込まれて「平和」でした。7が最大の開戦理由であり、戦争目的であるならば、プーチンはウクライナを全部取るまで戦争は止めない可能性が大です。いったん止めてもまた始めることになります。

というわけで、この戦争は、戦争挑発なしに始めた戦争なので「侵略戦争 aggressive war」ということになります。

以上がこの戦争を「侵略戦争」とよんで言及した理由でした。

ただ国際法には強制力はありません。ハーグの国際司法裁判所にも強制力はない。
国際法については、ビスマルクが大久保利通に教えたことがいまも有効です。戦争に勝った方が正義になる。
トランプはロシアの戦争を承認して戦争を早く終わらせたい。クリミヤや東部州がロシア領となれば、プーチンの戦争は正義になる。そうなればプーチンの戦争は「侵略戦争」ではなくなり、ぼくはの考えは間違っていたことになる。

たぶんそれは「力による現状変更を(まあまあ)認める19世紀的な国際社会」の始まりになる。
理由があれば強い国は戦争をはじめてもよいし、奪ってもよいし、支配してもよいという世界が、再び始まる。

これは現在の日本にとってかなりヤバい世界になるのではないでしょうか。

(つづく)

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この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

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