「皇国史観」と「日本が好きになる!歴史授業」10(授業づくりのなかで 6)



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「日本が好きになる!歴史全授業」は文科省学習指導要領に準拠してつくることを基本としてきました。現役の小学校教員だったからです。何よりもまず自分の仕事をより楽しく実りあるものにするためにつくってきました。公務員ですから教育基本法以下の法令を遵守することは当然です。指導要領は法律ではなく文科省の行政文書ですが現場の教師には「法に準ずる拘束力をもつ」とされています。

学習指導要領の古代の「内容」を引用してみます。

「狩猟・採集や農耕の生活,古墳,大和朝廷(大和政権)による統一の様子を手掛かりに,むらからくにへと変化したことを理解すること。その際,
神話・伝承を手掛かりに,国の形成に関する考え方などに関心をもつこと。」
「大陸文化の摂取,大化の改新,大仏造営の様子を手掛かりに,

 天皇を中心とした政治が確立されたことを理解すること。」

あっけないようですが、これが奈良時代までのすべてです。「日本が好きになる!歴史全授業」はこれに準拠してつくってきたわけです。
教科書もまたこれにもとづいてつくられています。がすべての教科書執筆者・教科書会社の学習指導要領理解が正しいかどうかはまた別の話です。文科省の検定合格は「許容範囲である」と認めたものなのです。

当時大宮市では東京書籍や教育出版の教科書を使っていました。教科書は指導要領の内容については「許容範囲」でしたが、「国を愛する心情」と「我が国の将来を担う国民としての自覚」を「養う」という社会科教育の二大目標に照らしてみるとはなはだ不十分なものでした。
ですから、教科書以外の教材を補ったり、教科書の解釈を修正しながら授業づくりを進めてきました。教科書をそのまま教える授業ではありませんが、法的拘束力のある文科省学習指導要領にはしっかり準拠しているわけです。

いくつか例をあげてみましょう。

1 教科書にはない建国神話をなぜ教えるのか?

「神話・伝承を手掛かりに,国の形成に関する考え方などに関心をもつ」とあります。教科書にはヤマトタケルのエピソードの一部がコラムとして載っているだけでした。どの出版社も大同小異です。

しかし、指導要領がわざわざ「国の形成に関する考え方に関心を持つ」と書いているのはなぜでしょうか?これをぼくは建国神話のことだと理解しました。

古事記や日本書紀には古代の先人が「祖国の形成について」どう考えているかが現れています。つまり教科書の神話の取り上げ方では不十分であり、天孫降臨から神武東征・即位建都の詔までを教材化することが欠かせないと考えました。たとえ歴史学的には神武天皇が実在せず創作された人物だったとしても、それが「国の形成に関する考え方」であるならば、これをしっかり取り上げようと考え「建国神話」のあらましを教えることにしたわけです。

また、教科書は神話のエピソードを古事記・日本書紀が書かれた奈良時代に載せていました。しかし、神話・伝承は日本書紀や古事記が創作した「(近代的な意味での)フィクション」ではありません。
その伝承が最も意味を持つ時代はいつだろうか?
そう考えて古墳時代(大和時代)の「大和朝廷による日本統一」の一部として教材化しました。今日に続く「天皇中心の国」の始まりはそこにあるからです。

また学習指導要領にはこう書いてあります(公民の内容の取扱いについて)。
「歴史に関する学習との関連も図りながら,天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること」

「日本が好きになる!歴史全授業」はこれを重視して、歴史のさまざまな場面で子供たちが「天皇への理解と敬愛の念を深める」ための手がかりを教材化してきました。「大和朝廷による日本統一」と「神武天皇の建国」をつなげて理解することについては前に書きました。またそれらの大昔の天皇と今上陛下が「万世一系」であると「考えられてきた」こともここで教えます。しかし、社会科教科書がそれについて触れることはありません。

ちなみに文科省が出している学習指導要領に関する「指導書」にはこんな記述もあります。

「古事記,日本書紀,風土記などには,国が形成されていく過程に関する考え方をくみ取ることのできる,高天原神話,天孫降臨,出雲国譲り,神武天皇の東征の物語,九州の豪族や関東などを平定した日本 武の尊の物語などが記述されている。ここでの指導に当たっては,これらの神話・伝承の中から児童が興味や関心をもつことのできるものを取り上げ,国の形成に関する当時の人々の考え方などに関心をもつように指導することが大切である」
しかしこれまで天孫降臨や神武東征を取り上げた教科書は小学校では皆無です。

国旗国歌ではこれを無視する教師が厳しく処分されますが、「天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにする」ための指導をスルーしている教科書は指導されることはありません。

2 飛鳥時代から奈良時代の学習で「天皇を中心とした政治(国)」を理解できるようにする

学習指導要領は授業で取り上げるべき歴史人物42人を定めています。次の通りです(太字は古代)。

卑弥呼,聖徳太子、小野妹子、中大兄皇子、中臣鎌足、聖武天皇、行基、鑑真、藤原道長、紫式部、清少納言、
平清盛、源頼朝、源義経、北条時宗、足利義満、足利義政、雪舟、ザビエル、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、徳川家光、近松門左衛門、歌川広重、本居宣長、杉田玄白、伊能忠敬、
ペリー、勝海舟、西郷隆盛、小久保利通、木戸孝允、明治天皇、福沢諭吉、大隈重信、板垣退助、
伊調博文、陸奥宗光、東郷平八郎、小村寿太郎、野口英世、

天皇は聖武天皇と明治天皇のお二人、皇太子が聖徳太子と中大兄皇子のお二人です。やはり、限られた時間で歴史教育の「目標」を達成しようとすれば、また「天皇への理解と敬愛の念を深める」ためには、42人には軽重をつけ、天皇など重要な人物は補わざるを得ないことになります。
また教科書の人物であっても扱い方や教材化に工夫が必要でした。

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この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

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